交通事故に関する相談の詳細

はじめに

相談例

私はバイクに乗って交差点を直進しようとしたところ、左折した自動車に巻き込まれ怪我をしました。
この交通事故によって私のバイクは廃車になり、また、それ以来ずっと通院し、仕事にも行けていません。
事故後は相手方の保険会社担当者と話をしていますが、その担当者から「そろそろ症状固定時期」だとか「そちらにも過失がある」などと言われています。
「症状固定」や「過失」について担当者から説明は受けましたが、あまり意味が理解できておらず、ちゃんと賠償してもらえるか不安を抱えています。

概要

上の相談事例にあるように、相談に来られる方の多くは、相手方の保険会社の説明内容が分からなかったり、その説明が本当に正しいかという点に疑問を持っています。
これは、示談交渉を生業としている保険会社担当者と、このような交渉に不慣れな一般の方との間の法的知識の差によるものです。
そして、このような知識の差から、交通事故被害者の多くは、被害者の立場にあるにもかかわらず、示談交渉において相手方の保険会社に主導権を握られ、保険会社の提示した金額をそのまま受け入れてしまいます。
そこで、交通事故の被害に遭われた方が、そもそもどのような損害賠償を求めることができるか。また、示談交渉をするにあたりどのような点に注意すべきか。という点についてご説明させていただきます。

求めることができる賠償金

物件損害

①車両修理費
上記相談事例のように交通事故によって、車両が損傷した場合には、その修理費   用を求めることができます。
しかし、修理費用よりも車両の買替差額(車両の時価額に買替費用を加えた額)の方が低い場合には、車両の買替差額の限度で費用の賠償が認められるのが通常です。
すなわち、時価額50万円の車両の修理に200万円がかかるとしても、200万円の賠償を受けることは出来ない(時価額50万円と買い替えのための諸費用しか賠償されない)ということです。
※なお、車両修理費に限らず、その交通事故発生について被害者側にも落ち度がある場合、賠償金からその分が減額されます。これを「過失相殺」といいますが、詳しくは後述します。

②代車使用料
車両の修理期間中に代車を利用した場合には、その分の代車使用料も請求できます。

③評価損
あまり知られてはないですが、例えば、購入して間もない車両が事故によって損   傷したような場合には、修理をしても「事故暦」によって車両の価値が減少するこ   とがありえます。このような場合は修理費とは別に「評価損」が賠償請求できます。
評価損の金額は、裁判例では、おおよそ修理費用の10%から40%程度が認められています。

④その他の費用
そのほか、事故車両のレッカーにかかった費用や車両の廃車料などがかかった場合にはこれも請求できます。
また、例えば、事故時に着用していた衣服や装飾品などが破損した場合には、これらも賠償請求できます。この場合も修理費用もしくは買替差額が認められることが多いです。

人身損害と症状固定

人身損害に関する賠償を求めるにあたり、ほとんどの事例で重要となるのが「症状固定日」です。
交通事故の損害賠償請求をするにあたって問題となる「症状固定」とは、損害賠償の範囲を明確にするため用いられている概念です。なぜこのような概念が必要かという点については、以下の2通りの事例を比較すると解りやすいと思います。

①Aさんは、交通事故により右手を骨折したので、その後2ヶ月間通院しました。その結果、骨折した箇所は元通りとなり、通院をする必要はなくなりました。

②Bさんは、交通事故により椎間板ヘルニアになり、1年間通院を継続しました  が痛みは消えず、医師からもこれ以上良くならないと言われました。しかしその後も痛みを和らげる為には通院を継続する必要があるということであり、仕方なくこれからも通院を続けることになりました。

①のAさんのように、交通事故によって生じた傷害が治癒した場合には、損害賠 償を求める範囲や期間は明確ですから、Aさんは通院していた2ヶ月間にかかった治療費やその分の慰謝料などを求めればいい訳です。
しかし、②のBさんのように、通院が長期間に亘り症状の改善が見られないような場合、実際に通院した期間や実際にかかった治療費が明らかになるのを待ってからこれらの賠償を請求するとなると、Bさんは長い期間をかけて賠償金を請求していかなければならないことになります。
そこで、このような不都合を回避するために、治療をしても大幅な改善が見込めない状態になった時点に残存している損害やそれ以降に生じる損害については、「後遺障害」として一括評価するという運用がされています。
この「治療をしても大幅な改善が見込めない状態」のことを「症状固定」といい、その時点を「症状固定日」といいます。
したがって、上の相談事例にある保険会社担当者の「そろそろ症状固定時期」という言葉の意味は、そろそろ治療費の支払を打ち切るから、それ以上通院の必要があったり、傷害が残っている場合には、それは後遺障害として請求してくださいという意味なのです。

人身損害と後遺症

以上の通り、後遺障害とは症状固定した時点に残存している障害のことです。
その障害に関しては、後遺症慰謝料が請求できるほか、後遺障害によって将来生ずるであろう収入の減少分が請求できます(これを「逸失利益」といいます。)。
しかし、症状固定時点に仮に身体に障害や痛みが残っていたとしても、必ずこれらの賠償が認められるとは限りません。というのも、後遺障害に対する賠償が認められるためには、原則として、自賠責損害調査センター調査事務所に申請をし、後遺障害等級を認定してもらう必要があるからです。
この認定を受けない限り、相手方の保険会社が後遺症に対する賠償をしてくれることはありません。
では、自賠責損害調査センター調査事務所がどのように後遺障害を認定しているのかといいますと、当該調査事務所は「後遺障害別等級表」というものを基準に、交通事故被害者の医療記録等を調査した上でこの判断をしています。
この「後遺障害別等級表」には、それぞれの部位ごとにその障害が後遺障害等級の何級に該当するかということが記載されています。
例えば、交通事故により一方の耳の聴力を失った場合には9級、両目の視力が0.1以下になった場合には6級といった具合です。
また、交通事故事例でよく目にする「ムチウチ」に関しては、「局部に神経症状を残すもの」と認められれば14級、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と認められれば12級が認定されることになります。
一方、この「後遺障害別等級表」に記載されていないものについて後遺障害が認められることはありません。

人身損害の項目

以下に、人身損害の賠償を請求する際の一般的な項目を列挙します。
これを見ていただければ、損害の範囲は症状固定時期が基準とされていることがよく分かると思います。

①治療費
原則として、症状固定日(治癒日)までの治療費が賠償されます。
なお、通常は、医療機関が保険会社に直接請求をし、これを保険会社が被害者に代わって支払ってくれます。

②通院交通費
原則として症状固定日(治癒日)までの通院にかかった交通費が賠償されます。
バス・電車などの交通費は通常問題なく認められますが、タクシー利用については必要性がないとして認められないことがあります。
なお、自家用車による通院の場合、一般的に1kmあたり15円のガソリン代が賠償されます。

③付添看護費(入院)
被害者の入院期間中に付添人が必要と認められる場合に認められることがあります。

④入院雑費(入院)
通常入院1日あたり1500円程度が認められます。

⑤休業損害
休業損害とは、交通事故の受傷のために仕事ができなくなったり、または就労能力に制限が生じて収入が減少したことについての損害をいい、原則として症状固定日までの減収分が賠償されます。
しかし、現実に収入減がなくても、有休を取得して通院をしたり、本来の勤務時間外にまで仕事をしたような場合に休業損害が認められることがあります。
なお、休業損害の額の計算は、原則として、事故前直近3ヶ月の給与を基準に日割計算して算出します。

⑥休業損害とは、交通事故の受傷のために仕事ができなくなったり、または就労能
 力に制限が生じて収入が減少したことについての損害をいい、原則として症状固定
 日までの減収分が賠償されます。しかし、現実に収入減がなくても、有休を取得し
 て通院をしたり、本来の勤務時間外にまで仕事をしたような場合に休業損害が認め
 られることがあります。
  なお、休業損害の額の計算は、原則として、事故前直近3ヶ月の給与を基準に日
 割計算して算出します。
入通院期間等に応じて支払われる慰謝料です。詳細は後述いたします。

⑦後遺障害慰謝料
後遺障害の程度等に応じて支払われる慰謝料です。詳細は後述いたします。

⑧後遺障害による逸失利益
後遺障害の程度等に応じて、将来収入の減少分として支払われる賠償金です。詳細は後述いたします。

入通院慰謝料について

交通事故事件では、被害者に生じた精神的損害、すなわち慰謝料額は、症状固定日までの入通院期間によって計算され、その期間が長いほど慰謝料額は多くなります。
しかし、その金額については、注意が必要です。というのも、保険会社(自賠責保険及び任意保険会社)が提示する入通院慰謝料の基準額は、裁判所が基準としている慰謝料の基準額よりも低く設定されており、保険会社は、弁護士が代理して交渉した場合には裁判所が用いる慰謝料額を基準としますが、被害者本人が直接交渉した場合には当然のように保険会社の基準とする慰謝料額を提示するからです。
そのため、裁判所基準の慰謝料額がどの程度であるかという点については、弁護士に相談するなどして把握しておいた方がいいでしょう。
なお、例を挙げますと、裁判所の基準では、他覚症状がある傷害の場合、通院6ヶ月で116万円程度、ムチウチなど他覚症状のない場合であっても通院6ヶ月で89万円程度の慰謝料額が基準とされております。

後遺障害慰謝料について

上述の通り、自賠責損害調査センター調査事務所によって後遺障害が認定された場合には、認定された等級に基づいて後遺障害に対する慰謝料(保険金)が支払われます。
なお、ここでも、保険会社の慰謝料の基準額と裁判所の基準額は異なります。
そのため、この場合、自賠責保険から後遺障害に対する一定の慰謝料(保険金)の支払を受けたあと、裁判所の基準額に満たない部分があればこれを相手側の任意保険会社(任意保険会社がない場合は加害者本人)に賠償請求していくことになります。 
それぞれの後遺障害等級ごとの慰謝料額(自賠責保険から支払われる金額及び裁判所の基準額)は以下の通りです。

後遺障害等級 自賠責保険金額 裁判所基準額
第1級 3000万円~4000万円 2800万円
第2級 2590万円~3000万円 2370万円
第3級 2219万円 1990万円
第4級 1889万円 1670万円
第5級 1574万円 1400万円
第6級 1296万円 1180万円
第7級 1051万円 1000万円
第8級 819万円 830万円
第9級 616万円 690万円
第10級 461万円 550万円
第11級 331万円 420万円
第12級 224万円 290万円
第13級 139万円 180万円
第14級 75万円 110万円

後遺障害による逸失利益について

また、後遺障害が認められた場合には、当該後遺障害によって被害者に生じるであろう症状固定日後の逸失利益(原則として将来の収入の減少分の損害)が認められます。
しかし、将来にどの程度の収入減が生じるかは明らかではないことから、逸失利益の額は、後遺障害の等級に従い、一般的に以下のような計算式によって導きます。

【計算式】
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数

非常に聞き慣れない用語がたくさん登場しますが、簡単に説明しますと、被害者の方の年収のうち後遺障害によって生じる喪失分を求め、その喪失が生じ続けるであろう期間分(実際はその期間から利息を控除した分)を合算する訳です。
そして、この労働能力喪失率は、認められた後遺障害の等級によって以下のように一律に定められています。

後遺障害等級 労働能力喪失率
第1級 100%
第2級 100%
第3級 100%
第4級 92%
第5級 79%
第6級 67%
第7級 56%
第8級 45%
第9級 35%
第10級 27%
第11級 20%
第12級 14%
第13級 9%
第14級 5%

人身損害のまとめ

このとおり、それぞれの損害項目に対する賠償金は、症状固定日を基準としてその金額が導かれるわけです。
なお、被害者の方の個別事情によって、ここで挙げたもの以外についても賠償が認められることがありますので、まずはご相談されることをお勧めします。

過失相殺

最後に、当該交通事故の発生について、被害者にも落ち度(これを「過失」といいます)があった場合には、賠償金額の総額から、その分が減額されます。
これを「過失相殺」といいますが、ここで減額される割合にも一定の基準があり、その結果、例えば2割の過失があるとされればその分が減額されます。
ここで、その基準を全て説明することは難しいので、その点については個別にご相談を頂いた際に説明をさせていただきたいと思いますが、相手方の保険会社はその基準を出来る限り相手方に有利に解釈しようとしますので、この過失割合については争いが生じることが多いといえます。   

示談交渉のポイント

自賠責保険と任意保険

まず、交通事故の相手方は、通常は強制保険である自賠責保険に加入しており、またその多くは任意保険である対人賠償保険にも加入しています。
この場合、任意保険会社が自賠責保険に代わってその分の賠償金を立て替えて被害者に支払い、本来自賠責保険によって払われる分の賠償金(保険金)については、任意保険会社から自賠責保険会社に対して請求されるという仕組みがとられています。これを、一括払制度といいます。
そして、任意保険会社が自賠責保険に対して請求出来る金額の上限は、通常の傷害事故(後遺障害・死亡の場合は別)で120万円(治療費なども含む)とされています。
ここで重要なのは、任意保険会社としては、120万円までの金額であれば、被害者に支払ったとしても会社にとってマイナスにはならないということです。
そのため、任意保険会社は、被害者の損害が120万円に達するまでは非常に親切に害者の請求を認めてくれますが、120万円を超えることが予想されると、なかなか請求を認めてくれなくなる傾向にあります。
そして、上の相談事例にもあるように保険会社担当者が「そろそろ症状固定時期」だと述べる裏には、そろそろ治療費の支払を打ち切らないと治療費・慰謝料などを合わせた賠償額が120万円を超えてしまい、任意保険会社が自らその費用を払わないといけなくなるという事情があることが多いのです。
また、同様に、被害者側の過失を主張して賠償額を減額しようとする裏にもこのような事情があることが多いといえます。
このように、保険会社担当者の頭には、まず120万円という金額があり、出来る限り賠償金をその範囲内で抑えよう、仮にこれを超えたとしても出来る限り出費を少なくしようという考えのもと、何かと理由をつけて賠償金額を調整しようとしているわけです。
交通事故の被害に遭われた方は、このような事情を知った上で、本当にここで治療を終了していいかどうか、本当に保険会社の担当者が言うような過失があるといえるのかという点についてよく検討し、疑問を持った場合には弁護士に相談し適切な賠償を求めるべきなのです。  

通院日数についての注意

上で、入通院慰謝料の金額は、入通院期間によって決まると述べましたが、通院日数については注意が必要です。
というのも、通院日数が少ない場合、通院期間はその通院日数の3倍~3.5倍程度に制限されることがあるからです。
例えば、通院期間は3ヶ月に亘っているが、実際通院した日数は合計で10日しかなかった場合、1ヶ月程度の通院期間に対応する慰謝料しか認められないことがあります。

健康保険制度の利用

よく誤解されている方が多いのですが、交通事故の場合の通院であっても健康保険が利用できます。
但しその場合、全国健康保険協会の「第三者行為による傷病届」を取得する必要があります。
保険会社から治療費の支払を打ち切られた後も通院を継続したいような場合には、健康保険を利用して通院されることをお勧めします。

ムチウチの後遺障害認定について

交通事故によりムチウチとなり、通院を継続した場合、その損害の程度によって後遺障害14級あるいは12級が認められることがあります。
しかし、ムチウチについてはMRIやCTなどの画像所見が得られないことから、ムチウチが後遺障害として認められるかどうかは、通院期間や通院日数が非常に重要視されているのが実情です。
そのため、例えば痛みが消えない状態でも保険会社から治療費の支払を打ち切られ半年程度で通院を終了してしまえば、これが後遺障害として認定されることはまずありません。
リスクもあるため一概にお勧めはできませんが、ムチウチの痛みがひどいような場合には、治療費の支払いを打ち切られたとしても通院を継続して治療することで、将来的に満足のできる賠償金を受け取れるケースがあります。

弁護士費用特約について

仮に、被害者の方が自動車保険に加入しており、同保険に弁護士費用特約が付帯されていた場合には、弁護士費用が適用される可能性があり、相談費用を含む弁護士費用等について、保険会社より給付を受けることができる場合があります。
ご自身の保険に弁護士費用特約が付帯されているか、当該交通事故に適用があるかどうかは、ご加入の保険会社にお問い合わせを頂ければ確認することができます。
また、場合によっては、ご親族の方が加入している自動車保険に付帯されている弁護士費用特約が適用される場合もあります。
詳しくは、ご加入の保険会社等にご確認ください。

おわりに

おわりに

私が依頼を受け、お手伝いさせていただいた事件の中には、受任後に相手方保険会社と交渉を行い治療期間の延長を認めてもらい、その後、頚椎及び腰椎の捻挫についての後遺障害の認定を受けることができた結果、当初の保険会社の示談金提示額が約20万円だったものを約300万円にまで増額した和解が成立したものもあります。
交通事故の被害に遭われた方は、事故後相手方の保険会社担当者と交渉をすることになると思いますが、その中で疑問に思ったことがあれば、まずは当事務所にご相談ください。
そこで、どの程度の賠償金が見込めるのかを知っていただくだけでも、適切な賠償金を勝ち取るためには非常に有用であると思います。

交通事故のトップページへ