遺言と遺留分減殺請求に関する相談の詳細

はじめに

相続法の改正

相続法については,民法の一部改正法と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が2019年7月13日にが公布されており、2019年1月13日以降に順次施行されることになっていますが、以下の説明は、改正前の相続法に基づく説明となります。

相談例

Aさんは、2000万円の預貯金と自宅の土地建物(評価額2000万円)を持っていましたが、80歳で亡くなりました。

Aさんには、妻のBさんと長男のCさん、及び、二男のDさんがいましたが、Aさんの葬儀の後、仏壇の引き出しから、Aさんが自筆で書いたと思われる平成○年○月○日付けの遺言状が見つかり(署名・押印あり)、遺言状には、「すべての財産を長男のCに相続させる」と書かれていました。

遺言について

遺言とは

人が死亡した場合、死亡した人(被相続人といいます。)の財産(遺産といいます。)は、法定の相続人(配偶者や子など)が法定の割合に従って相続することになります。
しかし、被相続人は、生前であれば自己の財産を自己の意思で自由に処分できることから、死後の財産の帰属についても、被相続人の意思に委ねることが被相続人の意思の尊重にかなうといえます。
そこで、法は、被相続人に最終意思による財産の処分を認めました(ただし、後述するとおり、「遺留分減殺制度」による制限があります。)。これが「遺言」という制度です。

設例のAさんの遺言は、財産を全て相続人の一人であるCさんに全ての財産を相続させると書かれているため、後に述べる「遺留分減殺制度」の問題があります。

遺言事項

法は、遺言について、遺言で定めることができる事項(法的な効力が認められる事項)を細かく定めています(法定遺言事項といいます。)。主な法定遺言事項の詳細は以下のとおりです。
もっとも、法定遺言事項以外の事項(付言事項といいます。)についても、遺言に書くこと自体は可能です(但し、原則として、その法的な効力が認められません。)。

設例では、遺言状の内容が財産に関する遺産分割方法の指定にあたるため、遺言事項に関する問題はないと考えられます。

①相続の法定原則の修正
・相続人の廃除・廃除の取消
・相続分の指定
・遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止
・特別受益の持戻し免除
・遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示
・遺留分減殺方法の定め

②相続以外の財産処分
・遺贈に関する事柄
・財団法人設立のための寄付行為
・信託の設定

③身分関係に関する事項
・認知
・未成年後見人の指定
・未成年後見監督人の指定

④遺言の執行に関する事項
・遺言執行者の指定

遺言の方式

①自筆証書遺言
遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、押印する方法による遺言です。
設例の遺言は、その全文、日付および氏名が自書され、押印されていることから、方式上の違背はないと考えられます。

②公正証書遺言
遺言者が、証人2名の立ち会いのもと、公証人の面前で、遺言の内容を口頭で伝え、それに基づいて、公証人が、遺言者の真意を文章にまとめて作成する遺言のことをいいます。

③その他の遺言
その他に、秘密証書遺言、危急時遺言、隔絶地遺言等の方式による遺言があります。

遺言の効力について

遺言能力

遺言が有効となるためには、遺言能力が必要となります。
具体的には、①遺言時に満15歳以上であること、②意思能力があること、の2点が必要となります。

遺言能力の有無は、個々の事例に応じて判断されるため、一概にはいえませんが、設例では、細かい事情は分かりませんが、80歳という高齢であるため、作成時期を前提として、判断能力の低下等の事情を踏まえて、検討する必要があるでしょう。

遺言の撤回

遺言は、いつでも撤回することができます。
これは、いったん遺言が作成されたとしても、遺言者の意思が変わることがあり、遺言者を従前の意思に基づいて書かれた遺言に縛ることは、最終意思の尊重という遺言制度の趣旨に反するからです。

遺言の無効

以下のような場合には、遺言は無効となります。

・方式違背
・遺言能力の欠如
・共同遺言
・被後見人による後見人またはその近親者に対する遺言(但し、後見人が直系血族、配偶者または兄弟姉妹の場合は無効となりません。
・公序良俗違反
・錯誤

遺言の執行と検認等

遺言執行者

遺言が有効になされたとしても、遺言内容を実現するための手続が行われなければ、遺言は絵に描いた餅になります。
たとえば、遺言に「自宅は長男に譲る」と書いた場合には、自宅の所有権移転登記手続きが必要となりますし、「長女に家宝の指輪を譲る」と書いた場合には、その指輪を長女に引き渡さなければなりません。
このように、遺言内容を実現するためには、その実現手続が行われることが不可欠であり、その手続は、通常、相続人が行います。
しかし、相続人は相続の当事者であることや、相続人間で遺言内容やその有効性をめぐり対立が生じる場合が考えられることから、遺言の実現手続が相続人により適正になされる保障はありません。
そこで、第三者たる「遺言執行者」を選任することにより、遺言内容の適正な実現を図ることになります。

遺言書の検認

遺言の執行を行うためには、家庭裁判所で遺言の検認という手続を受けなければなりません(公正証書遺言は必要ありません。)。
検認手続とは、遺言書の保全を行うために行われる手続きであり、遺言がどのような用紙何枚に、どのような筆記用具で、どのようなことが書かれているか等を記録して検認調書に記載するという方法により行われます。

設例の遺言は自筆証書遺言ですので、家庭裁判所による検認を経る必要があります。仮に、遺言状の入っていた封筒などが封印されていた場合は、その封を切る前に、家庭裁判所による検認手続きを経るようにしましょう。

遺言書の開封

封印のある遺言の開封は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立ち会いをもってしなければなりません。
この定めに反した場合は、5万円以下の過料に処せられることがあります。

遺言のまとめ

おわりに

手間と秘密性の保持という点では、誰にも知らせずに作成でき、しかも、簡便な手続きで作成できる自筆証書遺言にメリットがあります。
しかし、紛失や改竄、死後に発見されない恐れなどがあり、また、遺言自体の有効性に関する問題が生じる恐れがあるため、仮に遺言を作成される場合は、公正証書遺言を作成することが安全です。

設例の事案では、方式に不備がなく、また、Aさんの亡くなった直後頃に遺言状が発見されたため問題は生じませんでしたが、仮に遺言が見つからなかった場合や遺言が無効とされた場合には、亡くなられた被相続人の意思が実現されない危険があります。

数十年の長期間にわたって形成された財産に関する問題で、しかも、ご自身の最後の意思表明の機会となるのですから、自筆証書遺言という方法で済ますのではなく、公正証書遺言というよりリスクの少ない方法をとられることをお勧めします。

遺留分減殺請求権

遺留分減殺請求権とは

被相続人は、生前は自己の財産を自由に処分することができます。そして、被相続人による生前の意思を最終意思として死後に及ぼしたのが「遺言」制度です。

しかし、相続人の中には、被相続人の仕事を手伝ったり、身の回りの世話をするなどして、被相続人の財産形成に寄与した相続人がいる場合があります。また、被相続人の収入等によって生活が支えられていた相続人がいる場合もあります。

そこで、法は、被相続人の最終意思の尊重と相続人の生活保障等との調和という観点から、相続財産の一定割合を一定範囲の相続人に留保するという制度を定めました。それが「遺留分制度」です。

具体的に、どのような場面で必要になるかというと、自分以外の相続人や第三者に、遺言によって大部分の相続財産が遺贈された場合や、生前(原則として亡くなる1年前の期間)に、大部分の相続財産を贈与した場合などが該当します。

遺留分の範囲

①遺留分権利者
遺留分が保障される相続人は、法により定められています。
具体的には、兄弟姉妹を除く法定相続人が遺留分権利者ということになります。

②遺留分率
では、遺留分権利者には遺留分としてどの程度の保障が施されているのでしょうか。
これは、相続人の被相続人との身分的な性質によって異なりますが、直系尊属のみが相続人となるときは遺産の3分の1、その他の場合は遺産の2分の1となります。
たとえば、被相続人の子として兄弟が3人いた場合には、兄弟の遺留分率は、それぞれ6分の1となります。

③算定方法
遺留分算定の基礎となる財産は、以下の計算式により算出されます。
《相続開始時の相続財産+贈与した財産の価額-相続債務》
設例では、妻のBさんが相続財産の4分の1の遺留分、子のDさんが相続財産の8分の1の遺留分を有することになります。

遺留分減殺請求権の期間制限

遺留分において一番気を付けるべきことは、特別な期間制限が定められていることです。

具体的には、「遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったとき」から1年、相続開始の時から10年と定められています(民法1042条)。

遺留分減殺請求権のまとめ

おわりに

遺留分減殺請求を行う場合、何よりも注意しなければならないのは、1年の期間制限を遵守することです。
1年という期間制限はかなり短いので、仮に、遺留分を侵害するような遺言や生前の贈与があった場合は、放置せずに、速やかに対応するようにしましょう。

なお、遺留分減殺請求をするにあたっては、意思表示の証拠を残すため、配達証明付き内容証明郵便で行うようにしましょう。

いずれにしろ、遺留分に関しては、(通常の遺産分割も同様ですが)具体的な算定方法等が複雑であり、その効果に関しても法的に難しい問題が多いですから、このような場合には、速やかに専門家へご相談されることをお勧めします。

よくある質問

Q1

○問い
そもそも「相続」とは何ですか?

○答え
相続とは、被相続人の死亡後、相続人に対し、遺言あるいは法定の割合(民法第900条)に基づき、被相続人の財産に属した一切の権利義務を引き継がせることを言う(民法第986条)のに対し、遺贈とは、遺贈者の遺言により、受遺者にその財産の全部又は一部を、包括的にまたは特定して贈与すること(民法第964条)を言います。
どちらも人の死亡を原因とする点(民法第882条、第985条)と、遺留分を侵害することはできない点(民法第1028条、第964条)においては同じです。
違う点は、相続における対象者は相続人ですが、遺贈の対象者は、特定されていません。従って、相続人以外の人に財産を遺したいのであれば、遺言により遺贈をすることが必要となります。

Q2

○問い
父親(母親)の借金が多い場合、相続をしないことはできますか?

○答え
相続が始まった後、必要書類をそろえたうえ、相続の放棄、すなわち相続人の意思で相続しないことができます。
その場合、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ケ月以内に、家庭裁判所において「相続放棄の申述」の手続きを行い、審判を受ける必要があります(民法第915条、第938条)。
また、相続の放棄をすれば、その直系卑属に代襲相続権は発生しませんが、後順位の相続人が相続権を得ることになります。
なお、仮に3か月経過後に借金等が見つかり、相続放棄の期間を過ぎた場合であってもの、一定の要件を満たした場合には相続放棄をすることが可能な場合があるので、専門家にご相談ください。

Q3

○問い
相続開始前に子が死んだ場合に、その子の子(孫)の相続権はどうなりますか?

○答え
相続人である子又は兄弟姉妹が相続の開始以前に死亡し、又は欠格・廃除により相続権を失った場合において、その者の子が代わって相続人になることを、代襲相続と言います(民法第887条第2項、第889条第2項)。
代襲される者を被代襲者、代襲する者を代襲者と呼びます。
相続人の直系卑属(子)の場合は、どこまでも代襲します(再代襲・再々代襲、民法第887条3項)。 兄弟姉妹の子は代襲相続できますが、その子の子までには代襲相続権はありません(民法第889条第2項)。
代襲者の相続分は、被代襲者と同じです。被代襲者が相続を放棄した時、代襲者は相続できません。代襲者が複数の場合、被代襲者の相続分を代襲相続人の人数に応じて均等に分けます。

Q4

○問い
遺言を書きたいのですが、書き方に決まりはありますか?

○答え
民法により定められた方式で書かれていなければ、法的に効力のある(有効な)遺言書とはいえないので、注意を要します。また、遺言に記載できる事項も法律で決められており、それ以外の事項は、法的な意味を持たないので、きちんと確認して記載しましょう。
また、文言が不明確な場合などは、遺言者の意図とはかけ離れた解釈がされたり、争いのもとになる危険があるので、注意しましょう。
基本的には、遺言は、自分の最後の意思として重要なものなので、公正証書遺言という方式で残すことをお勧めします。

Q5

○問い
認知症の母親(父親)が書いた遺言も有効となるのですか?

○答え
遺言を書くためには、遺言能力が必要であり(民法963条)、そのような能力がない人が書いた遺言は無効になる可能性があります。
 この場合、認知症という診断がなされているからといって一概に無効であるとは限りませんが、認知症の進行度など様々な事情を考慮し、遺言が無効とされる裁判例も複数出されています。

Q6

○問い
同居して面倒を見てくれている子に、より多くの財産を相続させたいと思うのですが、可能でしょうか?

○答え
その旨の遺言書を書くことで可能になります。
遺言によって法定相続分とは異なる相続分を指定することができます。但し、他の子の遺留分額を超えた相続分を指定した場合には、その他の子らに遺留分を請求する権利が発生しますので、注意が必要です。

Q7

○問い
遺言を書きなおすことはできますか?

○答え
何度でも書き直すことができ、例えば、新しく作成した遺言で前に書いた遺言を撤回することも出来ます。
また、被相続人の死後、複数の遺言書が見つかった場合、日付の最も新しいものが有効となります。但し、後で問題が起きないように、新しい遺言書を作成した時点で、古い遺言書を破棄する方がよいでしょう。

Q8

○問い
遺言が見つかった場合、どうすればよろしいでしょうか?

○答え
遺言書が見つかった場合、保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません(民法第1004条第1項)。
「検認」とは遺言書の現状を確認し証拠を保全する手続きです。
なお、これを経たからといって遺言の内容が有効と確認されたものではないとされています。
封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができないことになっています(民法第1004条第3項)。
なお、公正証書遺言の場合、検認の手続は必要ありません(民法第1004条第2項)。

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