解雇や退職勧奨に関する相談

はじめに

30年間勤めてきた会社から突然、退職勧奨を告げられてしまいました。

住宅ローンもまだ残っているというのに、いったいこれから私はどうしたら良いのでしょうか?

そもそも、退職勧奨と解雇は何が違うのでしょう?

労働契約終了の種類

労働契約が終了するケースとしては、次のような場合があります。

辞職

いわゆる自己都合退職のことです。すなわち、労働者の意思によって労働契約を終了させる場合です。
法律上は、労働者は2週間の予告期間をおけばいつでも辞職できることとされています。

合意退職

会社と労働者の合意によって退職する場合です。ここには、退職勧奨を受けて退職に同意する場合も含まれます。
このような、いわゆる依頼退職の問題については、後段で詳しく述べます。

期間満了

期間を定めて雇用された労働者(契約社員など)について、期間満了に伴って労働契約が終了する場合です。更新拒絶などとも言われます。
何度か更新された後の更新拒絶は、その有効性が問題となることが多いので、後段で詳しく述べます。

解雇

会社の一方的な意思によって労働契約が終了される場合です。要件・効果の違いにより、普通解雇懲戒解雇整理解雇に分けられます。

解雇に関する基礎知識

はじめに

会社の一方的な意思によって労働契約が終了する解雇は、要件・効果の違いにより、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇に分けられます。 いずれの場合でも、労働者は、労働契約の終了によって生活の糧を失うことになるわけですから、会社がいつでも好き勝手に解雇できてしまったら大変です。 そこで、労働基準法や労働契約法は、労働者の雇用を守るために、解雇を制限する定めを置いています。 以下では、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇それぞれについて、その要件と効果を見ていきます。

 

普通解雇

【要件】
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、無効とされます(労働契約法16条)。
ここで、「客観的に合理的な理由」としては、①労働者の労務提供の不能や労働能力または適格性の欠如・喪失、②労働者の規律違反などが挙げられます。
また、「社会通念上相当である場合」というのは、先に挙げた客観的に合理的な理由の程度が重大であり、他に解雇回避の手段がなく、かつ労働者の側に 宥恕すべき事情がほとんどない場合とされています。
つまり、仮に労働者が規律違反行為をしてしまったとしても、その程度が軽微で、 始末書の提出、減給、配置転換などによって是正が期待されるような場合、会社はその労働者を解雇できないということになります。
さらに、会社は、少なくとも30日前に解雇をする旨の予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条)。

【効果】
懲戒解雇の場合と違って、通常、退職金が支払われないということはありません。

 

懲戒解雇

【要件】
懲戒処分として解雇がなされる場合であり、その要件として、まず懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません。
また、本人に弁明の機会を与えるなど適正な手続きを踏むことも要請されています。

【効果】
退職金の全部または一部が支払われない場合があります。
ただし、懲戒解雇の場合に退職金を支給しない、ということが退職金規定などで明記されている必要があります。 また、退職金不支給規定を有効に適用できるのは、労働者のそれまでの勤続の功を抹消あるいは減殺してしまう程の著しく信義に反する行為があった場合に限られると解されています。
したがって、懲戒解雇は有効だけれども、退職金不支給は無効(つまり、会社は労働者に退職金を支払わなければならない。)という場合もありえます。

 

整理解雇

【要件】
整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇です。
労働者の私傷病や非違行為など労働者の責に帰すべき事由による解雇ではなく、会社の経営上の理由による解雇である点に特徴があります。
解雇である以上、「客観的に合理的な理由があって、それが社会通念上相当であること」という要件はここでも妥当しますが、上記のような特徴に鑑みて、 整理解雇の場合には通常、四つの要件(要素)を総合的に判断して、有効性が検討されることになります。
四つの要件(要素)とは、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇をすることの必要性、③解雇される者の選定の妥当性、④手続きの妥当性のことを指します。
つまり、人員の削減の必要がなかったり、新入社員の採用ストップや給与カットによって解雇を回避できたり、不明確な選定基準によって被解雇者が選ばれているような場合、当該整理解雇は無効ということになります。

【効果】
普通解雇と同様、通常は退職金が支給されます。

 

合意退職に関する問題

合意退職について

不況時の人員削減策や、定年前高齢者の削減策として、労働者に対して合意退職や辞職としての退職が勧奨される場合があります(いわゆる退職勧奨)。
会社からの退職勧奨を受けて、労働者が自発的な意思に基づいて退職する場合、これは解雇ではありませんので、 上記で述べたような「客観的に合理的な理由があって、それが社会通念上相当であること」という要件が課されることはありません。
しかしながら、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為となり、労働者は、会社に対して損害賠償を請求することができます。
いやがらせによる退職強要行為を不法行為として、会社と実行者の双方に損害賠償責任を認めた裁判例もあります(エール・フランス事件 東京高判平成8年3月27日労判706号69頁)。
退職勧奨は解雇ではありませんので、応じるか応じないかは労働者の自由です。 そして、半強制的であったり執拗な退職勧奨行為は違法なものです。
退職勧奨を受けたときは、慌てず、自分がその会社に残りたいかどうかを冷静に考えてみる必要があると言えます。
そして、残りたいと思ったならば、会社からの申入れをきっぱりと断りましょう。

 

契約期間満了に関する問題

増加する契約社員

近年、契約期間を限定して採用される、いわゆる契約社員と呼ばれる雇用形態が非常に増えてきています。
この契約社員という制度、会社にとっては、必要なときに必要なだけの人員を確保して、必要がなくなったら、期間満了を待って簡単に労働契約を終了させられるということで、 非常に使い勝手の良い制度になっているようです。
しかし、労動者からすれば、契約更新がなされなければ期間満了後直ちに職を失ってしなうことになるのですから、 非常に不安定な立場に置かれることになります。
では、契約社員は、会社からの更新拒絶に対して、本当に何も言えないのでしょうか?以下では、契約社員に対する更新拒絶の限界についてみていくことにします。

更新拒絶の見解

契約社員の場合、契約期間が満了すれば、会社との間の労働契約は終了します。
しかし、契約終了後に改めて契約をし直すことは当事者の自由ですから、 会社も労働者も従前の契約を続けたいと考えれば、再度、期間の定めのある雇用契約が結ばれることになります(契約更新)。
また、労働者が所定の契約期間を経過しても労働を継続し、使用者がこれに格別の異議を述べないときは、契約が同一の条件をもって黙示に更新されたものと推定されます(民法629条1項)。
つまり、契約期間が過ぎた後も労働関係が事実上続いているのであれば、その契約は更新されたものと推定されるのです。

この黙示の更新を回避して、契約期間の終了と共に労働契約を終了させるためには、会社は、その旨を労働者に対して通知する必要があるといえます(更新拒絶)。
そして、この更新拒絶も会社が自由に行える訳ではないのです。

具体的には、次のような場合、 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない更新拒絶は無効になると考えられています。

  • 期間の定めのない契約(いわゆる正規雇用)と実質的に異ならない状態に至っていると認められる場合
  • 相当程度の反復更新の実態から、雇用継続への合理的な期待が認められる場合
  • 格別の意思表示や特段の支障がない限り当然に更新されることを前提に契約が締結されていたような場

このように、一口に解雇と言っても様々なケースが考えられ、それに応じて要件や効果も変わってくるということがお分かりいただけたかと思います。

会社から契約終了に関する通知を言い渡された場合、まずはそれが解雇なのか、退職勧奨なのか、更新拒絶なのかといったことを正確に理解し (なお、会社の人事部の方であっても、必ずしもこれらの法的性質や要件効果を理解しているとは限りません。解雇と言っていても実は退職勧奨だったり、 またはその逆であったりということはしばしば見受けられます。)、それぞれのケースに応じた対処 (解雇であればその有効性を争う、執拗な退職勧奨に対しては損害賠償請求を行うなど)をしていく必要があります。

まとめ

以上のとおり、労働契約の終了にはいろいろなケースが考えられます。

まずは、いま現在、自分が会社との関係でどのような立場に置かれているのかを正確に把握する必要があります。

その上で、それぞれのケースに応じた適切な対処を講じていきましょう。

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